【今の私ができるまで】第4話 趣味はクルマと写真。

2006年、5月。

私はエイトを買った。

父が当時勤めていたマツダディーラーを訪れた。

駐車場にはすでに私のクルマが用意されていた。

憧れのRX-8。このクルマは私だけのエイトだ。

父がキーをくれた。

「乗って帰りんさい。祥子のクルマじゃあ。」

緊張でドキドキしながらエンジンをかけた。

「キュルキュル!ブーン!!」

セミバケのレザーのシートのホールド感と、軽やかなエンジン音。

ロータリーエンジンならではの高回転。

楽しい!こんなにも運転が楽しい!!

ステアリングを握ると心が躍った。

 

 

この愛車と一緒に、もう一度仕事を頑張ってみようと決意した。

 

オンの日はバリバリ仕事をこなし、休みの日は必ずエイトに乗って遠出した。

当時持っていたデジカメで写真を撮ってはmixiにブログを綴った。

やがてクルマのコミュニティーに参加するようになり、友達が100人以上一気に増えた。

友人たちは皆競うように自分の自慢の車の写真を撮ってはブログにアップしていた。

 

実は私が写真に夢中になったきっかけは、愛車のエイト。

 

このクルマとの出会いがなければ、今の私はないし、写真すら撮っているかもわからない。

そして高画素のデジタルカメラが普及し始め、

趣味としてデジタル一眼レフカメラが定着し始めた。

 

コンパクトデジカメでは満足できなかった私は、

友人たちが次々と一眼レフカメラを買うのを見て自分も欲しくて欲しくてたまらなくなった。

 

ああ!もっとかっこいい写真を撮りたい!

クルマのカタログに載っているような写真を撮ってみたい!

 

エイトを買って3年目の時、私はついにデジタル一眼レフカメラを買った。

お給料のほとんどは、ガソリン代と高速代に消えた。

それほど、休みがあればどこかに出かけ、写真を撮っていた。

写真が上手な友達の真似をして撮り、

自分なりにかっこいい写真を撮って、ブログに投稿する。

DSC_0105

友人たちと競うように、写真で愛車自慢をした。

 

それくらい、愛車が好きで好きでたまらなかった。

車を通じて恋人もできた。

彼と私とが別々に車を運転してドライブに出かけるデートもした。

とにかく楽しくて仕方なかった。

 

オフ会には必ずカメラを持って行き、率先してカメラマン役を買って出た。

自分の活躍の場があることが嬉しかった。

車のオフ会

オフ会

 

おかげで仕事とプライベートにメリハリが出来た。

私は仕事をいかに効率良くこなすかに注力するようになった。

 

私は仕事を評価されるようになり、自分の仕事のスタイルができた。

プライベートが充実することで、仕事を前向きに取り組むことができた。

バイヤーから現場に異動して、体力的にかなり厳しい部分もあった。

 

それでも、楽しみがあると仕事を頑張れるようになった。

 

しかし。

体力的にキツかった。

いつまでこの仕事を続けられるだろうか。

全力で仕事を続けることは、無理だろう。

 

ある程度力を抜き

無理せず

長く継続できるように仕事をするようになった。

 

生理痛がひどかった私は、万が一体調不良で私が休んでも

現場がちゃんと回るような仕組みを作り、部下を育成した。

仕事に対するプライドはとても高かった。

仕事は完璧だと評価されたかった。

商品開発やバイヤーを経験したからこそ、「さすが」という評価が欲しかった。

 

私は少しずつ体調を崩していくとともに、恋愛もうまくいかなくなってきた。

私は完璧を求めすぎ、徐々に心と体のバランスを崩していった。

「完璧にやらなきゃ。」

「30歳過ぎたら結婚しなきゃ。」

 

友人たちがどんどん結婚していく中で、完璧ではない私に焦りを感じていた。

「結婚しなきゃ。」

 

その焦りが、私を苦しめていった。

3年ほど付き合った彼はいつまでたってもプロポーズしてくれない。

しびれを切らした私は彼と別れた。

「3年も付き合ったのに結婚できなかった!」

とてつもない焦燥感。

「私は魅力のない女だ。」

「結婚に向かない女だ。」

女として否定されたような気持ちだった。

 

自分から別れたのに、その恋愛を「失敗」と感じた私は

その後2年ほど失恋を引きずって苦しんだ。

「こんな私は生きる価値がないんだ。」

「失敗した。」

「私は結婚できない女だ。」

 

今から思えば、失恋なんてほんの些細なことだ。

 

子供の頃のイジメがフラッシュバックする。

「私はデブでブサイクだ。」

「私は生きる価値がないんだ。」

「私は必要とされていない。」

私は孤独感にどんどん蝕まれていった。

通勤電車を待つホームで、

「ああ、電車に飛び込んだらもう苦しまなくてもいいのかな。」

ぼんやりとそんな風に思う自分がいた。

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