まさか私が写真家になろうとは思ってもいなかった。
ただ、高校生までは「絵描き」になることが夢だった。
いつの間にか諦めていた、夢があった。
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子供の頃から絵を描くのが好きで、図画や美術の授業が一番好きな女の子。
小学生の頃は学年で1、2位を競うほどの腕前。
中学生になると文通相手を募り、一緒に同人誌を作ったり雑誌に投稿するようになった。吹奏楽部に入りフルートを始めると同時に油絵クラブにも所属し、始めて描いた油絵はモナリザの模写だった。
小説の挿絵が好きで、好きな作品を何度も何度も模写を繰り返し描いた。
お小遣いは全て本と画材に遣い、画材や画集を集めるのが趣味。
自分の外見にコンプレックスのあった私は、自分自身のオシャレにはほとんど興味がなく、自分の顔や体、外見が大嫌い。醜い自分が写真に写ることも嫌。
透明感のある作品が好きで、透明水彩絵の具やカラーインクを使って作品を描いている時がとても幸せだった。
そして絵画の中の美しい世界、ヨーロッパの景色に強い憧れを持っていた。
大学時代は西洋文化史を専攻し、イタリア文化研究で中世の服飾文化を卒論のテーマに取り組んだ。
絵画から紐解く歴史や文化はとても興味深かった。
学生時代に1ヶ月かけてイタリア各地を旅して体験したこと。地下鉄の駅から出た瞬間に初めて見るヨーロッパ!目の前に現れたミラノのドゥオーモの壮麗さはきっと一生忘れられない。
シチリアのアグリジェントの古代ローマ遺跡、タオルミーナの街並み、ウンブリア地方のオリーブ畑、各地の美術館にある数々の名画のすべてが記憶に残る。
そして最も美しいと感じた街はヴェネツィア。あまりの美しさに魅了された。
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いつの間にか絵を描かなくなってしまった私が、一眼レフカメラに出会ったのは今から7年前。
愛車と景色を写真に撮ることが面白くなり、九州、信州、中四国、北陸など絶景を求めて走り回った。
友人の結婚式では喜んでもらいたくてたくさん写真を撮ってアルバムを作ってプレゼントした。
「私が写真を撮ることで、美しい景色を共有したり、誰かを笑顔にできる」
まさにそれが私が写真を撮る原点。
もっと本気で撮りたい!と思ったのは、写真が上手な友達、そしてプロのカメラマンの友人に恵まれたからだった。
私たちの結婚式を撮ってくれた友人のカメラマン、ハラダシンジさんにとことん教わって独学で夢中で試行錯誤を繰り返した。
私もこんな写真を撮りたい!
とにかく、写真で誰かを喜ばせたい、もっと上手くなりたいという気持ちだけだった。
プロの写真家になろう。私は思い切って機材を買い換えた。
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転機となったのは昨年6月。
お友達の甲田ひなのちゃんから
「プロフィール写真撮影会をしたいので、祥子ちゃんに写真を撮って欲しい」
そう依頼されたのだ。
まだまだプロとしては活動していなかった私は、彼女の依頼に喜ぶと同時に戸惑った。
女性を幸せにする仕事をしたいと起業の準備をしていたが、技術も経験もまだまだ未熟で自信がなかった。
ただ、私なら彼女らしい美しさ、内面の美しさを写真に撮れる自信があった。
この時撮影した彼女の写真を見て撮影を依頼してくださる人が後を絶えない。
それほどまでに、彼女の美しさを写しだした一枚だと思う。
彼女のオーラが撮らせてくれた一枚がどれだけ私を勇気づけてくれたくれたことか。
この写真を撮った瞬間、私は「写真家 祥子」として誕生したのだ。
心と心がシンクロする時、写真は一枚の画像ではなく不思議と力を持つようになる。
私は今、写真家として自信を持って活動できる。
生きていることの素晴らしさ、人間の美しさ、世界の素晴らしさ。そして悲しみも。
ファインダー越しに見る私の世界を表現することが、今の私の使命。
私目線の世界観を、必要な人に届けたい。
musée de la photo 003 写真家 祥子
(冒頭の私の写真 撮影:菅原宏さん 菅原笑美子さん)